全六巻一五三曲からなる膨大なピアノ曲集『ミクロコスモス』を、バルトークは何気ない気持ちで作曲しはじめている。自分の幼い息子ペーテルのためのピアノ練習曲として作曲しはじめたのだが、それがしだいに拡大していき、ついには彼の作品のなかで最大のピアノ曲集として成長していったのだ。
子供のためのピアノ教則本としてはじめられた試みではあったが、『ミクロコスモス』をとおして、私たちはバルトークの精神の奥底にまで引きずりこまれていくような体験をする。それは、このピアノ曲集を構成する一曲一曲はたしかに単純な構成をもった比較的短い曲ではあっても、その小さな一曲一曲に、バルトークは自分の獲得した音楽的技法と音楽的思考のエッセンスを凝縮してつめこんでいるからである。まさにその小さな一曲一曲が、彼の精神的宇宙の全体にもつながっていく“ミクロコスモス(小宇宙)”としてのまとまりを備えている。
私がここに刊行を開始する『ミクロコスモス』シリーズは、このようなバルトークの精神に敬意をあらわし、そこに学ぼうとしている。このさき何巻にまで膨れあがることになるか予想もつかないが、それを構成することになる文章のひとつひとつが、私の思考の全体性へのつながりを保ったまま、“小宇宙”としてのたたずまいをしめしていると、読んだ人々に心づかれるようであってほしいものである。 |